積ん読解消シリーズ『社会はなぜ左と右に分かれるのか』
職場の同僚が企画してくれた半年ワンクールの朝読書会。
有り体に言えば、いま読むべき一冊ではないでしょうか。
(同僚と呼ぶにはあまりに先輩で、この道のベテランで、上司的な存在でもあるのですが、上司でもなく、敬意を込めて同僚と呼ばせていただけることを光栄に思いつつ)
最終回はこの、ジョナサン・ハイトの『社会はなぜ左と右に分かれるのか』でした。
社会はなぜ左と右にわかれるのか――対立を超えるための道徳心理学
- 作者: ジョナサン・ハイト,高橋洋
- 出版社/メーカー: 紀伊國屋書店
- 発売日: 2014/04/24
- メディア: 単行本
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実際に日本社会が左と右に分かれているのかは、わたしには勉強不足で判然としませんが、誰にもそのひとの「正義」があるということが、その字面よりも深く理解できる可能性のある一冊です。
人の思考においては、まず直観と感情が水路づけをし、そのあと論理的思考が可能な限りの正当化を試みることがおこなわれていて、感情に関する脳の機能が損傷されると小さな意思決定も難しくなるそうです。
なので、ハイトは、人の感情が刺激されるような、道徳心・正義心の拠り所を探求します。
私たちは、徳の高い行いに接した時に気分が高揚するのと同じように、不道徳な態度に接すると貶められたように感じるのだ。
「不道徳」なひとは「モンスター」のように見え、人間の基本的な感情を欠いていると考える。
不快感を覚えさせ、ゴミ箱からネズミが飛び出してきたときと同じような生理的嫌悪を引き起こす。
このような嫌悪感、不快感が生じる道徳心・正義心の拠り所が、複数あって、その重んじ方が人によって違うということがハイトの主張です。
ハイトによると、道徳心・正義心の拠り所は6つあります。
ケア、公正、忠誠、権威、神聖、自由。
アメリカでリベラルと自認する人たちは、ケア、公正、自由の3つの道徳基盤のみを重視する傾向があるそうです。
つまり、人に危害を加えず・加えられないこと、社会的な弱者に負担を押し付けないという規範を守れば、あとは権威に抑圧されず集団規範に縛られない自由を求める。
しかしアメリカで保守主義者を自認する人は、6つすべての道徳基準をもちます。彼らも公正を軽んじているわけではなく、「努力に応じた配分」という公正を求めます。また、福祉国家化し、働かない者、集団規範を守らず排除された(と彼らがみなす)者に税金が配分されることを警戒し、自身の努力である経済活動が抑圧されない「自由」を求めます。
現実の選択としては相容れない部分が大いにありながら、いずれもそれぞれの信じる「公正」「自由」などを主張している。しかし、保守主義者の方が6つの道徳基盤にもとづく感情の動きの原理を理解している分、人々の、感情が先行する論理的道徳的な判断を動かしやすいのだというのが本書におけるハイトの主張です。
自分にとって道徳的な観点でモンスターのように感じられる人がいたとして、その相手からみると、もしかしたら自分がモンスターかもしれない。
誰かのモンスターにならず、やや左よりの中道を行く勇気をもつということも、リベラルの勝ち筋としては有効と言えるかもしれません。保守が飲むことができ、かつ現実の課題を見据えた策を訴えられるか。
また、人間には雑食動物のジレンマというのがあるそうです(食べられるかどうかを誰かがトライしないと生き延びられないけれど、見慣れない物を食べるとお腹を壊すかもしれない)。
- 雑食動物は、ネオフィリア(新奇好み)とネオフォビア(新奇恐怖)という二つの対立する衝動を抱えて生きている
- どちらの衝動が強いかは人によって異なる
- リベラルはネオフィリアの度合いが高く(「経験に対して開かれている」とも言える)、対して保守主義者はネオフォビアの度合いが高く、確実にわかっていることにこだわる傾向があり、境界や伝統の遵守に大きな関心を持つ
と、ハイトは分析します。
ここもリベラルが一枚岩化しにくい理由かなと思います。すでにある伝統や「確実にわかっていること」は実体感をもって共有しやすいけれど、まだここにないものや可能性はまだ確定していないので共に手に取ることがしにくいのでしょう。
このように考えてくると、「みんなで考える」手法(ホールシステムアプローチ)、「未来を手に取る」手法の開発と普及はとても大事なことだと思えてきます。
フューチャーサーチ/フューチャーセッションもそうですし、U理論のオットー・シャーマーなどもこのあたりに精力的に取り組んでいるようです。
誰にでもあるネオフィリア的な部分を丁寧に乗り越えて、まだここにない未来を手に取ろうとする都合上、活動は草の根的にならざるを得ず、それもリベラルが大勝しにくい理由かもしれません。
理由に思いを巡らせたうえで、なにを反省し、なにを取り入れ、それらをどう反転するか。知恵の絞りどころと思いました。
批評がしたかったわけでもなくて、私自身が考えるためのメモとして書いたものをみなさんにシェアさせていただきました。
感情が先行する思考プロセスについてはこちらもご参照ください。
- 作者: ジョナサン・ハイト,藤澤隆史,藤澤玲子
- 出版社/メーカー: 新曜社
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あといつものU理論
U理論――過去や偏見にとらわれず、本当に必要な「変化」を生み出す技術
- 作者: C オットーシャーマー,C Otto Scharmer,中土井僚,由佐美加子
- 出版社/メーカー: 英治出版
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もしかしたら続編の方が今回のテーマには近いかも
出現する未来から導く――U理論で自己と組織、社会のシステムを変革する
- 作者: C オットーシャーマー,カトリンカウファー,由佐美加子,中土井僚
- 出版社/メーカー: 英治出版
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